まず第一にNGNが本格的に普及の軌道に乗るには,NGN版のFTTHサービス,フレッツ 光ネクストの提供エリアが十分に拡大することが前提条件となる。

 東日本地域では,7月末から東京都内の一部地域を手始めにエリア拡大が始まった。9月には東京23区をカバーし,年内に首都圏の主要都市部とすべての県庁所在地でフレッツ光ネクストの販売を開始する(図1)。西日本地域でも,10月初頭に大阪市をはじめとする電話番号が06で始まるエリア全域で提供開始した。「地方都市での需要が集中していない」(NTT西日本の大竹伸一社長)ため,展開は東日本よりも遅くなる。県庁所在地のカバーは2009年度半ばとなる見通しだ。

図1●フレッツ 光ネクストの提供エリアの拡大予定<br>年内に東京都下はほぼ提供エリアとなるが,そのほかの地域は年明けまではまばらなままである。
図1●フレッツ 光ネクストの提供エリアの拡大予定
年内に東京都下はほぼ提供エリアとなるが,そのほかの地域は年明けまではまばらなままである。
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 いったんNGNの提供エリアとなった地域では原則として既存サービスの販売は止め,フレッツ 光ネクストだけを販売する。そうなると「東京都内では秋から量販店の店頭などで,フレッツ 光ネクストが販売の主軸になる」(NTT東日本の幹部)という。

統一ブランドで意図的にNGNの認知を抑制

 フレッツ光ネクストの提供エリアが広がっていく過程で,NTT東西には悩ましい問題が生じる。既存サービスをユーザーが買い控える可能性だ。FTTHへの乗り換えを検討しているユーザーの間に,自宅がフレッツ 光ネクストの提供エリアになるまで,FTTH導入を見送る動きが広がる恐れがある。

 商用サービス開始からこれまでの4カ月間は,「関心の高いユーザーからエリア拡大予定についての問い合わせはあったが,今のところBフレッツ全体の売れ行きに買い控えの影響は見られない」(NTT東日本の日森敏泰コンシューマ事業推進本部営業推進部IPアクセスサービス部門長)という。

 しかし,エリアが限定されていた第1四半期に比べ,本格展開を始めた夏以降,NGNに対するユーザーの認知度が高まる可能性がある。そこでNTTグループは販売政策上,「既存サービスも含めた統一ブランドとして『フレッツ光』という名称を使っていく」(日森部門長)ことで買い控えに一定の歯止めをかけたい考えだ。新旧のFTTHサービスをひとまとめにし,フレッツ 光ネクストというサービス名の露出を意図的に避けようとしている。

社運をかけた次世代サービス「慎重に展開」

 地域によって新旧サービスの売り分けが必要な状態では,買い控えリスクが生じるのは当然のこと。ただし,NTT東西にはエリアを一気に広げたくない事情もある。NGNを全国規模で運用し始めて,いきなり致命的なトラブルを起こすような事態だけは避けねばならない。

 2007年のひかり電話の事故の影響を踏まえ,NGN網では大規模な通信事故を起こさないよう,網を論理的に細分化して運用するなどの対策を施している。こうした新しいインフラの運用方法や故障発生時の対応などについて,この4カ月間をかけて整備してきた。「社内には慎重すぎるのではないかという議論はあったが,グループの命運をかけている以上,万全を期していく」(中村担当部長)。

 慎重な拡大計画とはいえ,秋から年末にかけては毎週のように同時に10カ所前後の収容局で,光ネクストの提供を始めるための工事が発生する。「ユーザー満足度が既存サービスよりも下がっては全く意味が無い。開通作業にも遅れが出ないよう,今まで以上に神経を集中する」(日森部門長)と,気を引き締める。

地域IP網からの移行手順も早々に検討開始

 NGNの提供エリアを本格的に拡大するには,NTT東西の体制整備だけでなく,フレッツ光ネクストと組み合わせられるインターネット接続事業者(ISP)側の対応も重要だ。「光ネクストを導入するユーザーに『あなたの使っているISPは対応していないので,変えてください』とは言えない」(日森部門長)。

 光ネクストを導入したユーザーが,今までと同じISPを継続して使うためには,そのISPが光ネクスト経由でユーザーを収容するための装置をNGN網内に新たに設置する必要がある。

 地域IP網に接続しているISPは「大手を中心にほとんどNGNへの対応は済んでいる」(中村担当部長)。ただ,光ネクストへの対応を見合わせている ISPも残っている。

 NTT東西が抱える課題はISPを継続して利用できるように対応を求めることだけではない。「地域IP網で利用できる全サービスをNGNに引き継げるように,様々な外部の事業者に協力してもらう」(中村担当部長)ことも避けて通れない。地域IP網は,ISP接続を中継するだけでなく,フレッツ回線ユーザー限定でコンテンツを配信する事業者や,フレッツVPNシリーズを活用して企業向けに閉域のASPサービスを提供する事業者のプラットフォームとしても活用されているからだ。

 NTT東西は,2年後の2010年度を目途に地域IP網からNGNへの計画的な収容替えを始める予定。その際には,「ユーザーが何も意識することなく,次の日から今まで通りのサービスを使えることを理想とする」(中村担当部長)。これを実現するには,地域IP網を使って利用できるすべてのサービスを,NGNでも利用できるように整備しなければならない。

 NTTグループは年内にも,収容替えを遠隔切替で実現する技術・方法を検討する組織を立ち上げる。その中で,外部への協力要請などの計画も具体化していきそうだ。